顧客向けの説明文は、正確に書こうとするほど硬くなりがちです。
士業の文章だと、なおさらです。
「届出」「適用」「確認事項」「登記」「添付書類」「許認可」「要件」「控除」「申告」。
普段は当たり前に使う言葉でも、顧客には少し重く見えることがあります。
ただ、やわらかくしすぎて意味が変わるのも怖い。
僕なら、AIには専門判断ではなく、顧客向けに伝わりやすい言い換え案だけを出してもらいます。
まず結論: AIには「判断」ではなく「言い換え案」を出してもらう
専門用語をAIで扱うときに、最初に分けたいのはここです。
- AIに任せないこと: 法律、税務、労務、登記、許認可などの判断
- AIに頼みやすいこと: 説明文の下書き、言い換え案、顧客がつまずきそうな言葉の洗い出し
たとえば、「この手続きで何が必要か」をAIに確定させるのは危ない使い方です。
一方で、事務所内で確認済みの説明文をもとに、「この文章は初めて読む顧客に伝わるか」「硬い言葉を少しやわらかくできるか」を見るのは、比較的試しやすい使い方です。
AIの出力は、そのまま顧客に送る完成文ではありません。
意味が変わっていないか、専門用語を残すべき箇所まで崩していないかは、人が確認する前提で使います。
顧客情報をAIに入れる前の基本は、士業事務所でChatGPTを使う前に確認したい基本ルールでも整理しています。顧客メールの下書きまで広げたい場合は、顧客メールをChatGPTに入れる前に確認したい置き換え例も近いテーマです。
架空の説明文例
まず、次のような説明文があるとします。実在の制度や案件を説明するものではなく、練習用の架空文です。
【言い換え前の架空説明文】
本件については、必要書類の確認後、所定の手続きに着手します。
確認事項に不足がある場合は、追加資料のご提出をお願いすることがあります。
なお、手続きの可否および完了時期は、関係機関の判断や提出資料の内容により変動します。
士業の人から見ると、かなり無難な文章です。
誤解を避けようとしていて、必要な逃げもあります。
ただ、初めて相談する顧客から見ると、「結局、私は何をすればいいのか」「どの部分がまだ未確定なのか」が少し見えにくいかもしれません。
ここでAIに頼むのは、結論を変えることではありません。
文章の順番を整えたり、硬い言葉を少しほどいたり、顧客が次にやることを見えやすくしたりすることです。
言い換え前 / 言い換え後
| 観点 | 言い換え前 | 言い換え後の方向性 |
|---|---|---|
| 必要書類の確認後 | 必要書類の確認後、所定の手続きに着手します | まず書類を確認し、不足がなければ手続きの準備に進みます |
| 確認事項に不足 | 確認事項に不足がある場合 | 確認したい点が残っている場合 |
| 追加資料のご提出 | 追加資料のご提出をお願いすることがあります | 追加で資料をお願いすることがあります |
| 可否および完了時期 | 手続きの可否および完了時期は変動します | 手続きできるかどうかや完了時期は、資料や確認状況を見てから案内します |
言い換えのポイントは、専門用語を全部なくすことではありません。
士業の説明では、あえて残した方がよい言葉もあります。
たとえば「登記」「申告」「許認可」「届出」のような言葉は、別の言葉に置き換えすぎると、かえって意味がぼやけることがあります。
本文ではやわらかく説明しつつ、正式な言葉は残す。
そのくらいのバランスが現実的です。
AIへのお願い文の例
下の文は、練習用の説明文を入れて試すためのものです。
実際の顧客名、会社名、住所、案件の細かい事情は入れず、まずは架空文や事務所内で作ったサンプル文で試してください。
あなたは、士業事務所の顧客向け説明文を読みやすく整える補助役です。
次の説明文を、初めて読む顧客にも伝わりやすい表現に言い換えてください。
条件:
- 法律判断、税務判断、労務判断、登記判断、許認可判断はしない
- 制度内容や手続きの可否を確定しない
- 専門用語の意味を変えない
- 専門用語をすべて消さず、残した方がよい言葉は残す
- 顧客に送る完成文ではなく、下書き案として出す
- 最後に「人が確認するポイント」を箇条書きで出す
説明文:
[ここに架空の説明文、または個人情報を含まない練習用の説明文を入れる]
「わかりやすくして」だけだと、AIは親切心で意味を丸めすぎることがあります。
僕はAIを使うとき、特に専門職向けの文章では「残した方がよい専門用語は残す」と先に書くようにしています。
ここを入れるだけで、出力の方向が少し落ち着きます。
AI出力例
上のお願い文に、架空説明文を入れると、たとえば次のような出力が返ってくるイメージです。
【顧客向けの言い換え案】
まず、必要な書類がそろっているかを確認します。
不足がなければ、手続きの準備に進みます。
確認したい点が残っている場合や、追加で資料が必要な場合は、
あらためてご連絡します。
手続きできるかどうかや、完了までの時期は、
提出資料の内容や関係機関での確認状況によって変わります。
現時点では、はっきりした見通しをお伝えしにくい部分があります。
まずは資料の内容を確認し、今後の流れやおおよその見通しが分かり次第、
あらためてご案内します。
【残した方がよい言葉】
- 手続き
- 必要書類
- 関係機関
【人が確認するポイント】
- 「手続きの準備に進みます」が、実際の業務の流れと合っているか
- 「手続きできるかどうか」という表現が、専門的な意味を変えていないか
- 顧客に期待させすぎる表現になっていないか
- 追加資料をお願いする条件が、事務所の運用と合っているか
この出力例は、あくまで下書きです。
良いところは、文章が少し短くなり、顧客が「まず書類確認がある」「不足があれば連絡がある」と流れを追いやすくなった点です。
一方で、「手続きの準備に進みます」という表現が、その事務所の実際の業務フローに合うかは確認が必要です。
ここをAIだけで決めるのではなく、人が「この言い方なら誤解が少ないか」を見ます。
人が確認するポイント
AIで言い換えたあと、僕は次の順番で見るのが現実的だと思っています。
| 確認すること | 見る理由 |
|---|---|
| 意味が変わっていないか | やわらかくした結果、専門的な意味が薄くなることがあるため |
| 残すべき専門用語を消していないか | 正式名称や業務上必要な言葉まで崩すと誤解につながるため |
| 顧客が次にすることが見えるか | 読みやすくても、行動が分からない文章では使いにくいため |
| 期待させすぎていないか | 完了時期、可否、必要書類などを断定して見せないため |
| 事務所の運用と合うか | 連絡方法、確認順序、担当範囲は事務所ごとに違うため |
特に気をつけたいのは、「読みやすい」と「正しい」は別という点です。
AIの言い換えは、読みやすい文章を作るのは得意です。
でも、専門用語の意味が変わっていないか、顧客に誤った期待を持たせないかは、人が見ないと分かりません。
使いやすい場面
この使い方は、いきなり重要な個別案件に使うより、次のような低リスクな文章から試しやすいです。
- 初回相談前の一般的な案内文
- 事務所サイトのFAQ下書き
- 顧客向けメールの冒頭説明
- 必要書類を案内する前の補足文
- 面談後に「今日話したこと」を短く整理する文
社労士なら、顧問先に送る一般的なお知らせ文の冒頭をやわらかくする。司法書士なら、手続きの流れを説明する前置きを整える。行政書士なら、許認可の案内文で「確認が必要な部分」を伝わりやすくする。税理士なら、資料提出のお願い文を、少し読みやすくする。
このくらいの範囲なら、AIを「専門家の代わり」ではなく「文章を読みやすくする補助」として使いやすくなります。
ここだけなら、かなり頼みやすいです。
注意点
AIに言い換えを頼むと、文章はきれいになります。そこが便利でもあり、少し怖いところでもあります。
避けたいのは、次のような使い方です。
- AIが出した言い換えを、そのまま顧客に送る
- 制度内容、期限、必要書類、料金、手続き要件をAIに確定させる
- 専門用語をすべて日常語に置き換える
- 「この説明なら十分」とAIに判断させる
- 実名、会社名、住所、相談内容をそのまま入れる
代わりに、こう使います。
- 架空文や匿名化した練習文で試す
- AIには複数案を出してもらう
- 専門用語を残す案と、やわらかくする案を分ける
- 最後に人が、意味、期待値、実務運用を確認する
- 顧客に送る前に、事務所内の表現ルールと照らす
注意点ばかり並べると、結局面倒に見えます。
ただ、言い換えはかなり小さく試せるAI活用です。
まずは公開済みの一般文や架空文で試して、「AIはこう言い換えるのか」とクセを見るだけでも十分です。
今日できる小さな一歩
今日試すなら、実案件ではなく、次の1文だけで十分です。
必要書類の確認後、所定の手続きに着手します。
これをAIへのお願い文に入れて、「専門用語を残す案」と「顧客向けにやわらかくする案」を2つ出してもらいます。
返ってきた文章を見て、次の3つだけ確認します。
- 意味が変わっていないか
- 顧客が次に何をすればよいか見えるか
- そのまま送るには強すぎる、または軽すぎる表現がないか
この1文で感覚がつかめたら、次にFAQの1項目、メールの冒頭3行、案内文の一段落へ広げます。
いきなり事務所全体の文面をAIで整えようとしない方が、失敗したときに戻しやすいです。
よくある質問
専門用語は全部やさしい言葉にした方がよいですか?
全部は置き換えない方がよい場面があります。正式な手続き名、制度名、業務上必要な言葉は残し、その後ろに短い説明を添える方が誤解を減らしやすいです。
AIに「この説明で正しいか」を聞いてもよいですか?
この記事ではおすすめしません。AIには「読みにくい箇所」「顧客がつまずきそうな言葉」「別表現の案」を出してもらい、正確性や専門的な意味は人が確認する前提にします。
実際の顧客メールや相談文を入れてもよいですか?
最初は入れない方が無難です。実名、会社名、住所、案件の細かい事情などを外し、事務所内ルールや利用するAIサービスの条件を確認してから扱います。まずは架空文で十分です。
AI出力をそのまま顧客に送ってもよいですか?
そのまま送る前提にはしません。言い換え案として受け取り、意味、期待値、専門用語、事務所の運用に合っているかを人が確認してから使います。
まずはここだけで十分です
士業事務所の専門用語は、正確さを守ろうとするほど硬くなります。
そこをAIで少しほどくと、顧客に伝わる文章の候補を短時間で出せます。
ただし、AIに任せるのは専門判断ではありません。
説明文の下書き、言い換え案、確認ポイントの整理までです。
意味が変わっていないか、残すべき専門用語を消していないか、顧客に期待させすぎていないかは、人が確認します。
まずは架空の1文から試す。
それでAIの言い換えのクセを見て、使えそうならFAQや案内文の一部へ広げる。
士業事務所で最初に試すAI活用としては、このくらい小さな始め方がちょうどいいと思います。