ChatGPTみたいな生成AIを、事務所でも使ってみたい。

でも、顧客情報を入れていいのか。スタッフにどこまで使わせていいのか。専門判断までAIに寄ってしまわないか。

ここが怖いところです。

便利そうなのに、ルールがないまま使うのは普通に不安です。

この記事では、士業事務所で生成AIを使う前に決めておきたい基本ルールを整理します。AIへのお願い文の例も入れます。

AIに任せるのは、文章のたたき台、メモ整理、チェックリスト化、言い換えまで。

個別案件の判断、法律・税務・労務などの専門判断、受任可否、報酬額の断定、顧客への最終回答は人が行う前提です。

まず結論: AIに入れる前にルールを決める

生成AIは、文章を整えるのはかなり得意です。

でも、何でも入れていい箱ではありません。

士業事務所で使うなら、最初に「AIに入れてよい情報」と「入れてはいけない情報」を分けます。

僕なら、最初のルールはこのくらいまで絞ります。

AIに入れてよい一般化メモや架空例と、入れてはいけない実名や会社名などを左右で比較する図

区分AIに頼みやすいこと人が必ず確認すること
文章のたたき台一般的な案内文、問い合わせ返信の下書き事務所方針、言い過ぎ、誤解を招く表現
メモ整理要点、確認事項、次に聞くことの整理事実関係、抜け漏れ、専門判断が必要な箇所
チェックリスト化返信前、面談前、掲載前の確認項目実際に足りているか、顧客に出してよいか
言い換え硬い文を読みやすくする正確性、専門用語の意味が変わっていないか

逆に、AIに任せないところも先に決めます。

  • 個別案件の結論
  • 法律、税務、労務、登記、許認可などの専門判断
  • 受任するかどうかの判断
  • 報酬額や追加費用の断定
  • 顧客への最終回答
  • 実名、会社名、住所、番号、細かい相談内容などの守秘情報や個人情報の投入

ここを分けないと、便利さより怖さが勝ちます。

「入れてよい情報」は抽象化したメモから始める

最初から実案件をそのまま入れない方がいいです。

練習するなら、顧客名、会社名、住所、日付、金額、固有の事情を外したメモから始めます。

たとえば、こういう形です。

【AIに渡す前の整理メモ】

相談者: ある小規模事業者
相談内容: 取引先から急な連絡があり、対応方針を相談したい
相談者の状態: 不安が強く、まず何を確認すればよいか知りたい
事務所側がしたいこと: 初回面談前に聞くべきことを整理したい

依頼:
このメモを、要点、確認したいこと、面談前に準備してもらうものに分けてください。
専門判断や結論は書かず、事務連絡として使える整理だけにしてください。

これは、AIに答えを出させるためのメモではありません。

人が確認しやすい形に並べ替えるためのメモです。

AIへのお願い文の例1: 個人情報を伏せた相談メモ整理

まず使いやすいのは、相談メモの整理です。

あなたは士業事務所の業務補助として、相談メモを整理する役割です。

以下のメモには実名、会社名、住所、具体的な金額、詳しい個別事情を入れていません。
個別案件の結論、法律判断、税務判断、労務判断、受任可否の判断は書かないでください。

次の形式で整理してください。

1. 相談者が困っていること
2. 事務所側が確認したいこと
3. 面談前に準備してもらう資料候補
4. 人が判断すべき点

【相談メモ】
相談者は小規模事業者。取引先から急な連絡があり、今後の対応について不安がある。
まず何を確認すればよいか分からず、面談前に準備するものも知りたい。

このお願い文では、AIに「判断しないで整理して」と先に伝えています。

ここが大事です。

AI出力例: そのまま送らず、人が直す

上のお願い文に対して、AIは次のような整理を返すかもしれません。

1. 相談者が困っていること
- 取引先から急な連絡があり、どのように対応すべきか不安がある
- 面談前に何を準備すればよいか分からない

2. 事務所側が確認したいこと
- 取引先から届いた連絡の概要
- これまでのやり取りの流れ
- 相談者が特に不安に感じている点
- 希望する面談時期

3. 面談前に準備してもらう資料候補
- 取引先から届いた連絡文
- 関連する契約書や過去のやり取り
- 時系列でまとめた簡単なメモ

4. 人が判断すべき点
- 個別事情を踏まえた対応方針
- 専門的な判断が必要な説明
- 受任可否や費用に関する案内

この出力は、そのまま顧客に送るものではありません。

ただ、初回面談前に「何を聞くか」を考える材料にはなります。

人が確認して、事務所の実際の流れに合わせて直します。

AIへのお願い文の例2: 問い合わせ返信の下書き

問い合わせ返信も、AIに頼みやすい作業です。

ただし、顧客メールをそのまま貼りません。

実名や細かい事情を伏せたうえで、一般的な返信下書きだけを作らせます。

士業事務所からの初回返信メールの下書きを作ってください。

条件:
- 個別案件の結論は書かない
- 法律、税務、労務などの専門判断は書かない
- 受任可否や報酬額は断定しない
- 丁寧だが、硬すぎない文面にする
- 最後に、人が確認すべき点を箇条書きで付ける

状況:
相談者から、ある手続きについて相談したいという問い合わせがあった。
面談候補日をいくつか案内し、事前に相談内容の概要と関係資料を準備してもらいたい。

ここでも、AIに頼むのは返信文の下書きまでです。

「このケースではこう対応すべきです」と言わせないようにします。

AIへのお願い文の例3: スタッフ向けAI利用ルール案

スタッフに使ってもらうなら、先にルール文を作っておくと楽です。

完璧な規程を作るというより、最初の共通メモです。

士業事務所のスタッフ向けに、生成AI利用ルールのたたき台を作ってください。

前提:
- これは正式な規程ではなく、事務所内で話し合うための下書きです
- 実名、会社名、住所、電話番号、メールアドレス、詳しい相談内容はAIに入れない
- AIは文章の下書き、メモ整理、チェックリスト化に使う
- 個別案件の判断、専門判断、顧客への最終回答には使わない

出力形式:
1. 使ってよい場面
2. 使ってはいけない場面
3. 入れてはいけない情報
4. 送信・共有前に人が確認すること

こういうメモがあるだけでも、「何となく使う」よりかなり安全に始めやすくなります。

AIへのお願い文の例4: 返信前チェック

最後に、人が見る前提のチェックリストもAIに作らせます。

以下の返信文を送る前に、人が確認すべきチェックリストを作ってください。

確認観点:
- 個別案件の結論を断定していないか
- 法律、税務、労務などの専門判断に見える表現がないか
- 受任可否や報酬額を断定していないか
- 顧客情報や第三者情報を不用意に含んでいないか
- 相手に冷たく見える表現がないか
- 次に何をすればよいか分かるか

【返信文】
ここに人が作成した返信下書きを入れる。

AIにチェックさせるときも、最終確認は人です。

AIのチェック結果が正しいとは限りません。

でも、「見直す観点」を並べる補助としては使いやすいです。

最初のルールは小さくていい

最初から立派なAI利用規程を作ろうとすると、たぶん疲れます。

僕なら、まず次の5つだけ決めます。

  1. 顧客情報や守秘情報をそのまま入れない
  2. AIに頼むのは下書き、整理、言い換え、チェックリスト化まで
  3. 専門判断、受任可否、報酬額、最終回答は人が行う
  4. AIの出力は必ず人が確認して直す
  5. 迷ったらAIに入れず、事務所内で確認する

このくらいなら、スタッフにも共有しやすいです。

大事なのは、AIを禁止することではありません。

どこなら使えるかを決めて、危ないところに入らないようにすることです。

生成AIは、士業の専門性を置き換えるものではありません。

でも、文章のたたき台、相談メモの整理、返信前チェックのような地味な作業では、かなり頼りになります。

便利さと怖さを分ける。

まずはそこからで十分です。